私的な読書感想文:さらなる深化は伊達じゃない

2022-08-20

『オムニバス』 誉田哲也 著、光文社

 

姫川玲子シリーズ最新作は全7篇の短編集ですが、前作の長編『ノーマンズランド』よりも読み応えがあり、月並みですが大変おもしろかったです。

 

相変わらず無駄がない文章構成、何気ない文章に自然に組み込まれる高度なユーモア、個性がしっかりと描かれていて愛着が湧く登場人物達・・・。

練り込まれたストーリーも勿論面白いのですが、上記の要素でもう十分に贅沢な時間を過ごさせて頂きました。4篇の『赤い靴』と5篇の『青い腕』が連作になっていて読み応えがありますが、個人的には6篇の『根腐れ』が一番面白かったです。

姫川玲子らしさが一番滲み出ていると感じられる終盤も肝ですが、著者のファンなら知る人ぞ知る(?)「葉山深奈美」の名前が出てきた瞬間にテンションが上がり、思わず『武士道エイティーン』を読み返しました。

 

そしてそれ以上にテンションが上がるのが、最終篇『それって読唇術?』で明かされる、「魚住久江」巡査部長の捜査一課殺人班十一係への異動!

名作『ドルチェ』『ドンナビアンカ』の主人公で、名言「一人鍋だってへっちゃらだ。むしろ早く煮えてうれしい位だ」を生んだあの魚住巡査が、満を持して捜査一課殺人班へ、そして姫川刑事と合同捜査をする日が来るとは・・・

※正確には今回は異動の予告だけですが、次回作で大活躍することは間違いないでしょう。

 

・・・かなりマニアックな感想文になりました。でも一番染みたのは表紙の姫川刑事の後ろ姿で、テレビドラマで主演されていた故・竹内結子さんへのリスペクトが感じられて、切なくも読者の心を静かに満たしてくれる、そんな印象を受けます。

オムニバス形式なのでサクッと読め終えてしまうことと、菊田巡査の出番が少ないのが若干の不満ですが、ファンの方もそうでない方も存分に楽しめる今作。必読です。

                 コスモス苑 介護課長

 

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